2024.11.21
コラム
医療従事者向け 11月コラム「嚥下ってどう診てる?嚥下評価フローチャートの導入」
高齢者にやさしい食事・生活を。
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Information / Column
2023.06.13
最近リハビリテーション(以下リハ)医療のなかでも、高齢化と疾病の重症化が大きな問題となってきている。なかでも嚥下障害ももつ患者は誤嚥性肺炎という危険性が常にあり、また経口摂取という人間本来の欲求を満たすことが不可能であるため、患者のQOLはかなり低いものと考えられる。摂食・嚥下のリハは人が人らしく生きる権利の回復全般を網羅する知識と技術を提供することである。そして近年新たな考え方として、大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部の野原先生等は「今ある機能を活かして生活を支援するのもリハである」と提唱している。
嚥下障害の原因としては大きく分けて「静的障害」(炎症や、腫瘍などの病気によって喉の粘膜が腫れたり喉が狭くなって、食べ物が上手く通過できなくなる状態)と「動的障害」(脳梗塞などの脳血管疾患や、パーキンソン病といった病気によって嚥下運動に関係する神経や筋肉がうまく働かなくなった状態、すなわち、嚥下と呼吸の切り替えが上手く、いかなくなる状態)がある。なかでも「動的障害」による嚥下障害の割合は多く、摂食・嚥下障害の原因疾患の多くが脳血管疾患と言われている(図1)。
脳血管疾患患者の嚥下障害傾向に関して「脳卒中後の嚥下障害の自然経過」と題する論文によると、脳卒中により、入院時51%に嚥下障害が見られ、1週間で27%に減少し、脳卒中発症半年後に嚥下障害が残っているのは8%程度とのこと(Dysphagia. 1997;12:188-193)。このように脳血管疾患による嚥下障害は回復することが見込まれており、これまでの嚥下リハは治療・回復・訓練を目的とした「キュア」に重きが置かれてきた。回復期の基本は誤嚥性肺炎を起こすことなく、機能の廃用を防止し、全身の回復とともに嚥下機能の回復を待つという方針である。そこでは「訓練・機能回復」という考えが中心にあり、そこで多くのエビデンスが出され、嚥下リハのさまざまな知識や技術が生まれてきた。その結果、嚥下リハは目覚ましい発展を遂げ、学問の基礎を確立したともいえる。一方、現在増えつつあるのは慢性期の症例である。慢性期は、その名のとおり慢性的な状態であり、一部機能回復が図れる部分もあるが、多くは回復が困難であり、機能低下を防ぐ支援・維持・介助を目的とした「ケア」に重きが置かれる(図2)。
したがって、慢性期においては、今ある機能を活かしたリハが提供され(ケア)、食事内容の工夫などがメインとなる(図3)。
近年嚥下障害の原因として増加しているのが認知症である。認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」をいう。認知症は回復期、慢性期などの病態ステージはないものの、考え方としてはケア的な嚥下リハが重要となる。認知症の最大の危険因子は加齢であり、65~69歳での有病率は1.5%だが、以後5歳ごと倍に増加し、85歳では27%に達する。現時点で、我が国の65歳以上の高齢者における有病率は8~10%程度と推定されている(下方浩史 日本臨床 増刊号 痴呆症学3 2004;62増刊号4:121-125)。
平成14年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は、男性は78.32歳、女性は85.23歳。寿命は著しく伸び、日本は本格的な高齢社会に突入している。認知症の高齢者も年々増加し、2005年は約189万人、2020年には約292万人に達すると予測され、認知症を起因とした嚥下障害も増加していくと考えられている(図4)。
大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部の野原先生は著書の中で「多くの認知症は進行性であるがゆえ、嚥下機能が改善することはなく、嚥下機能を回復させることを目的にリハを行う(キュア)のではなく、現在の機能を最大限に引き出しつつ、安全に経口摂取できるように介助・支援する(ケア)ことが重要で、認知症の嚥下リハは、「キュア=治療」という考え方の「訓練・機能回復」ではなく、「ケア=介助・支援」という考え方にシフトする必要があり、脳卒中に対する方法・技術論をそのまま適用するのではなく応用して、認知症という病態に応じたリハを提供していかなければならないということを常に頭において臨床に臨む必要がある」と述べている(野原幹司編「認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション」南山堂 (2011))(表1)。
表1 脳血管疾患と認知症の対比
脳血管疾患 | 認知症 | |
症状 | 回復 | 進行 |
嚥下機能 | 回復する | 改善困難 |
嚥下リハ方法 | キュア>ケア | キュア<ケア |
これまでの嚥下リハに関する参考資料の多くは回復期の脳血管疾患障害を対象としたものであった。しかしながら、これを全ての症状に当てはめることは困難であり、それぞれの症状、嚥下機能に応じた嚥下リハが必要であるということを述べた。本文執筆に多くの参考となった「野原幹司編「認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション」南山堂 (2011)」中には数々の症例に応じた対応が記載されている。このように現在第一線で活躍されている医師、看護師、言語聴覚士、介護士等により徐々に多くの知見が得られつつある。さらに実務に取り組んでおられる現場の方々の横のつながりが強化され、一つ一つの症例に対してデータベース化することができれば嚥下リハは飛躍的な発展を遂げるものと思われる。http://www.amazon.co.jp/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E6%91%82%E9%A3%9F%E3%83%BB%E5%9A%A5%E4%B8%8B%E3%83%AA%E3%83%8F%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E5%B1%B1%E8%84%87-%E6%AD%A3%E6%B0%B8/dp/4525520612
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