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GLIM criteriaの本質を掴み栄養サポートに活かそう

2024.07.01

  • お知らせ

2024年6月21日
海老名総合病院栄養科
齊藤大蔵

  • 栄養状態とは

 GLIM criteriaを考えるにあたって、まずは「栄養状態」について考えてみます。「低栄養状態とは?」と聞かれてどのように答えますか。ここで言葉に詰まるようだとGLIM criteriaの本質に辿り着くことはできません。そこで栄養状態とは一言で回答すると骨格筋”量”です。図1は除脂肪体重(骨格筋量だと思ってください)の減少を示しています。

図1. 除脂肪体重の減少による症状。

この図を知っている方はたくさんいると思いますが、除脂肪体重が30%減少すると不幸な転帰を迎えることになります。臨床でも骨格筋量を測定していると骨格筋量が20%以上減少すると栄養サポートへの反応が著しく低下することを実感します。

 それでは栄養状態は骨格筋量であることはわかりましたが、その骨格筋を減少させる要因にはどのようなものがあるでしょうか。骨格筋量を減少させる要因には次のものがあります。①飢餓(食事摂取不足)、②侵襲、③悪液質、④加齢、⑤活動生の低下、⑥神経筋疾患(脳卒中後の麻痺やALSなど)。この中で①〜③について確認します。①飢餓は、最も栄養士が介入する余地があるところです。ただし、②侵襲、③悪液質による食思の低下や心理的、社会的要因で食事摂取量が低下する場合など①の飢餓の要因だけでも多岐にわたります。続いて②侵襲は急性疾患のイメージです。今までなかった疾患や外傷により体調が悪くなっている状態です。インフルエンザに罹ってしまったことをイメージすると考えやすいでしょうか。高熱で食欲がなくなりますし、インフルエンザが治ってすぐに本調子の方はほとんどいないでしょう。最後に③悪液質です。これは癌のイメージの方が多いかもしれませんが、臓器不全(心不全、慢性腎臓病、肝硬変など)や慢性疾患(糖尿病、COPDなど)が該当します。先ほどの侵襲と違うのは、CKD患者さんは入院していなくてもCKDを有していますし、同様に糖尿病も入院の有無に関わらず糖尿病に対する治療を行っています。心不全やCOPDの急性増悪などの状態はありますが、常にその疾患の状態にある場合、悪液質と考えて良いでしょう。①〜③について確認しましたが、個々の要因が単独で骨格筋量を減少させるわけではなく複合的です(図2)。

図2. 骨格筋量減少に関連する要因

骨格筋量が保たれていれば多少の飢餓、侵襲、悪液質があっても対抗できますが、骨格筋量が減少していると、それぞれの要因に対する抵抗性が下がり、より骨格筋量の減少に拍車がかかります。図2が理解できているとGLIM criteriaの本質を理解するのは容易になります。

  • 栄養状態の評価としてのGLIM criteria

 次のGLIM criteriaのカットオフ値はESPEN1)/ASPEN2)のコンセンサス論文の数値をそのまま記載しています。しかし、本コラムではカットオフ値の考え方よりもGLIM criteriaの本質を紹介しています。その点は誤解がないように一読ください。

 まずGLIM criteriaは「スクリーニング」を含む評価・診断です。本コラムではスクリーニングについて詳細は割愛しますが、スクリーニングを全患者さんに実施することが重要です(図3)。

図3. GLIM criteriaの流れ

 

 GLIM criteriaはphenotypic(現症、表現型)、etiologic(病因、原因)の2つパートに分かれます。この2つのパートにはそれぞれ評価項目がありますが、この評価項目にそれぞれ1つ以上該当するものがあれば低栄養と診断します。その後は低栄養の重症度を判定しますが、重症度の判定にはphenotypicの評価内容をもとに重症度を分類します。その後、炎症の分類を行います。GLIM criteriaの流れは皆さんもご存知だと思いますが、なぜこのような評価方法なのでしょうか。phenotypicは結果を表し、etiologicはphenotypicの結果に至った原因を示します。さて、これは先に確認した図2に対応すると図4の通りになります。

図4. 骨格筋量減少に関連する要因とGLIM criteriaの各項目の対応

 phenotypicの体重減少や低BMIは骨格筋量の減少が予測できる指標であり、筋肉量の減少はそのまま骨格筋量を評価していることになります。etiologicは飢餓、侵襲、悪液質を評価しており、骨格筋量の減少に関連する要因をみていることになります。つまり、GLIM criteriaとは現時点の栄養状態と、現在の栄養状態になった要因分析と今後の栄養状態の予測を行っているツールであるといえます。

 例えば図5の①、②を比較してみます。入院時のBMIはどちらも 18.0kg/m2低体重です。しかし、入院前の体重減少で見ると②に比べて①の方が、体重減少が大きくなっています。この原因が侵襲や悪液質であれば、入院後もさらに低栄養状態が助長されるのは想像に難くありません。イメージとしては点線の経過を辿るのではと思うと、より介入が必要なのは①の患者さんかもしれません。続いて①と③を比べてみます。こちらは入院前の体重減少率は同じです。しかし、③の方が半年前の体重と入院時の体重が低値になっています。この場合は侵襲や悪液質が同じであれば、現時点での栄養状態で、より栄養サポートが必要な患者さんはどちらか考えることになるでしょう。このように結果だけでも原因だけでも正確な栄養診断ができないことがわかると思います。反対にどちらも評価できるGLIM criteriaは栄養評価・診断に適切であることがわかります。

図5. GLIM criteriaによる診断イメージ

  • GLIM criteriaの基準値について

 最後にGLIM criteriaの各基準値について見ていきますが、本コラムでは各評価項目のカットオフ値について言及はしません。これまで、見てきたGLIM criteriaの考え方をもとにカットオフ値の考え方について確認したいと思います。BMIのカットオフを例に考えてみます(図6)。

図6. BMIのカットオフ値の違いによる栄養サポート違い

 カットオフ値を下げると低栄養に該当する患者は減りますが、その分重度の低栄養患者が対象となります。栄養サポートの難度は高い患者が多くなるということです。反対にカットオフ値を上げると低栄養に該当する患者は増えますが軽症〜中等度の低栄養患者も抽出されます。先に述べたように骨格筋量が低下すると、そもそもの侵襲や悪液質に対する抵抗性が低下するため、栄養サポートの反応性が悪くなります。私見ですが、軽症〜中等度までの栄養サポートが効果を実感することが多いと感じます。マンパワーが少ないという理由だけでカットオフ値を下げることは非常に難しい患者さんの対応を迫られ、そこで結果を求められる形になる場合が多くなってしまうのではないかと感じます。そこで、カットオフ値を決める時のポイントを下記に示します。

  1. どのような栄養サポートを提供していきたいかを決める。
  2. そのカットオフ値にした時の業務量(対象患者数など)の予測をしておく。
  3. 開始後も検証できる仕組みを作っておく。
  4. (ある程度コンセンサスが取れたカットオフ値が良い)

また炎症の関与などの評価については、入院する患者層が病院によって全くことなるため、開始後も定期的にトラブルシューティングとして、ある程度スタッフ間で評価の誤差がないようにしていくことが必要になると思います。

  • まとめ

今回GLIM criteriaについて書かせていただきました。GLIM criteriaでの栄養評価・診断は入院における基本的な流れになります。つまり、これはチャンスです。GLIM criteriaをきっかけとして、栄養士個人としてではなく、栄養部門のスタッフあるいは病院全体に「栄養状態とは?」を浸透させ栄養の文化を作るチャンスです。GLIM criteriaの運用だけ考えれば良いということではないように思います。栄養評価・診断の最前線に栄養士がいて、全国の病院で低栄養の患者さんをサポートできる体制が構築されていくことを楽しみにしています。

  • 参考文献
  • Clin Nutr. 2019 Feb;38(1):1-9.
  • JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2019 Jan;43(1):32-40.

こちらの記事にて「GLIM基準の解説動画」をまとめております。あわせてご確認ください。

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